凍傷から学んだこと

     2006年4月8日 53歳の誕生日に記す。   
     △1:4月15日  △2:6月10日  △3:6月30日 △4:2007年3月10日 

  2006年2月11,12日の八ヶ岳登山で最大3度の凍傷を負い、4月8日現在切除手術こそ見合わせていますが、最終的には多少の欠損と形成手術実施の可能性を医師から告げられています。(6月10日追記:5月15日に結局右手薬指先の切除。)
遭難したわけでもなく、同行者7人の内で凍傷になったのは私だけですから明らかに私の無知と不注意が引き起こしたものです。

今後私のような目に遭う人が出ることのないよう、あえて恥を承知で受傷と治療の経緯やこれをきっかけに調べた凍傷に関する情報を残しますので、頭の片隅にとめておいて頂ければ幸いです。
ただし、私に医学の知識がない事はもちろん、凍傷に関わった経験も今回が初めてですから、私が実際に経験した事実以外の記載についてはその真偽が不明確であり、結果に対する責任は負いかねますことをご了承ください。

△4:「感謝されない医者」金田正樹著(山と渓谷社2007年3月1日初版)第7章に凍傷の予防と治療が書かれています。冬山登山者必読!

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雪山に入る場合、凍傷は別世界の事ではないし、私のように行動中であってもほんの数時間で罹患する場合があります。まず始めに、やっていい事・いけない事など最低限知っておくべき応急処置の知識をまとめてみました。


☆ ピッケルを握る場合は少なくとも1枚は嵩の高い毛の手袋を着用する。

☆ 格別の痛みや違和感なしに凍傷を罹患している場合がある。登山中は特に手足顔の知覚の有無を確認しなければならない。
知覚の麻痺が判明した場合は一刻も早く下山し手当てを行うべきである。

☆ 凍傷は組織の凍結自体による損傷だけでなく、低温曝露等の直接要因が解消された後でも血行障害による組織の破壊が進行する。つまり
凍傷の度合いは受傷直後の外観からは分からない。決して初期の外観で甘く見てはいけない。

☆ 応急措置は再凍結の恐れのない場所で、40〜42℃くらいのお湯に約1位時間程度漬けて血栓を融解する。その間ひどい疼痛が出る場合があるが痛み止めを飲むか、ない場合は我慢しても暖め続ける。水泡ができても構わず暖める。

☆ 痛んだ皮膚をいたわる。つまり雪や肌による摩擦、直火の輻射などをやってはいけない。どこであれ細菌感染の恐れのある状態で水泡を破ってはならない。気を落ち着けたくても、タバコは厳禁。車内での受動喫煙にも注意。

☆ 出来る限り早期に医師の診断・治療を受ける。 

△4:雪山で飲む暖かい飲み物は凍傷予防の薬だと思ってほしいと金田先生が強調されている。

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【受傷日時】2006年2月11,12日(受傷は多分12日)


【受傷場所と行動時間】
八ヶ岳赤岳 
11日:アプローチと石尊稜クライミング(7ピッチ目敗退)で13時間
12日:行者小屋テント場⇔赤岳(文三郎道)3時間半 ←受傷?(+南沢登山道下山1時間半)


【天候】
11日:晴れ〜高曇り、暖かかった
12日:ガス、強風、寒かった


手袋】 ← 写真があります  
クライミングの自由度を考え、薄手のグローブを3重にして使用した。1枚1枚は薄いがレイヤード効果とゴアウィンドストッパーで防寒性を確保できると考えていた。
インナー:極薄化繊(アウトラスト)5本指
ミッド:ハイキング用薄手防風
アウター:ゴアウィンドストッパー5本指(中綿なし、裏地なし)


【受傷部位と受傷様態】
●右手薬指第2関節から先に2度の凍傷(入浴後水泡〜後日潰瘍)、第1関節から先に3度の凍傷(後日黒化)
  登山中  :文三郎道の森林限界を越えたあたりで強風に遭い、ピッケルを持つ右手に痛みを感じてピッケルを持ち替えるなどした。20分ほどで痛みは消滅。赤岳ピストン後、行者小屋にてテント撤収作業中も軽い痛みあり。その後、南沢登山道を下山し始めてから右手、次いで左手に鋭い痛みを感じたが30分ほどで消滅。以後違和感なし。行動初期に指が痛くなるのは雪山ではいつものことなので気にしなかった。
  下山直後 :駐車場での後片付けや着替えの時は違和感なし(多分感覚もあった)
  帰路    :車に乗って1時間ほどして患部の知覚喪失および薄青紫の変色に気付いた。
  入浴後   :変色部に僅かに赤みあり。指の背側の第2関節と爪の間に水泡を複数形成
  翌日    :水泡は第2関節背側から先全体に一体化。腹側は腫れて紫色に変色。
  一週間後 :第1関節から先が真黒化、少なくとも皮膚は壊死、水泡部は潰瘍形成。
  全治    :現時点不明(壊死部の除去手術せず。自然脱落後に形成手術の可能性あり)
  後遺症   :現時点不明 →5月15日第一関節を残して除去手術。(6月30日追記)

●右手中指第1関節から先凍傷1度(角質化た皮膚が8週間後に完全脱落して全治)

  登山中   :薬指と同じ
  下山直後 :薬指と同じ
  帰路    :薬指と同じ
  入浴後   :変色部に僅かに赤みがさしてきた。水泡なし
  全治    :6月16日爪が剥がれて全治(6月30日追記)
  後遺症   :僅かに指先の痺れあり(6月30日追記)


【推定原因と対策】
装備不適切:ピッケルを握っていた部分と凍傷部位が一致することから、薄いグローブでピッケルの金属部を約3時間握っていたことが原因と考えられる。
ピッケル使用の場合は層数の多寡よりも、生地自体に嵩がありなおかつその嵩が潰れ辛い手袋を使用すべきである。
手袋の保温メカニズムを考えてみました。(ブラウザのBackで戻ってください。)


【私の場合の応急治療】
車内のヒーター暖気で低温やけどに注意しながら患部溶解(美濃戸から自宅まで4時間)
帰宅後40℃の湯に約30min×2回入浴


【私が受けた病院での検査と治療】
1.レントゲン撮影
2.水泡内体液抜取りと細菌感染予防(簡単な消毒)
3.血管拡張、血行促進の薬を服用(プロレナール錠5μg、ユベラニコチネートカプセル)
4.嫌気性細菌感染の疑いによる細菌検査、水泡除去、薬浴および抗生物質の服用と塗布
5.乾燥壊死部の自然脱落を待ち現在に至る。脱落状況に応じて形成手術の可能性あり


【治療について】
●病院では血栓を溶解するあるいは/および血管を拡張するための内服薬や程度に応じて点滴での治療が行われる。血栓を溶かす点滴は罹患後数日のみが有効らしいので早期に医師にかかることが重要。また腫れがひどかったため切開し、その解消を図った例も紹介されている。
△4: プロスタグラジン(PGE1)の点滴は顕著な効果が見られると金田先生が書かれている。

●細菌感染防止の意味から水泡を破ってはいけないという説がWEB上に多いが、医師の治療を指しているのかそれとも現場での応急治療を指しているのか判別がつかなかった。水泡は末梢の循環を阻害するので私の場合は受診の度に皮膚をはがさず注射針で内部の体液を抜いた。嫌気性細菌感染が疑われた時点では下に薄い皮膚が出来てきていたため水泡を形成していた皮膚をはがし、薬浴と抗生物質の塗布と内服をしたが、結果的に細菌は検出されなかった。重症の場合感染の有無に関わらず初めから抗生物質の投与を主張する説もある。
△4:金田先生はその著書の中で「水泡は絶対に破ってはいけない。」と強調されている。

●私は患者が出来る凍傷治療の本質は血行促進と細菌感染防止であると考えて生活した。具体的には長湯、厚着、手袋の着用、患部を浴槽につけないなど。血行促進と感染予防を兼ねた温薬浴を続けた例もある。私は知らなかったので実施しなかったが、有効と思えるので医師に相談すべきである。喫煙は能動、受動を問わず末梢血管を収縮するので確実に避けた。

●「凍傷を切除する場合、壊死部分と生きている部分の境界が明確になってから行い、決して急いではいけない。その明確化には通常4週間程度必要である。罹患部が指先先端の場合は自然脱落を待ってもよい。外科にて即刻切除と判定された足指先の4度の凍傷を温存治療し、2ヵ月後に早くも自然脱落し患部の変形も少なく済んだ。凍傷一般に言えることとして乾燥壊死に持ち込むことが重要(筆者要約)」という報告*1がある。

●凍傷治療経験のある医師は少なく、治療経験豊富な医師の診断・治療が必要と言われている。東京の白髭橋病院および向島クリニックの金田正樹医師が凍傷治療の第一人者。(WEBで検索可能)
私の場合治療していただいている先生は指の複雑な形成手術の術例が多い手専門の外科・形成外科部長さん。徐々に壊死が進行する凍傷治療の経験はないということであったが、納得いく説明と処置をしていただいている。   △4:2006年4月末、金田正樹先生の白髭橋病院へ転院、5月中旬に第一関節を残して切除。


【反省点】
1.当日はテント内での停滞を決め込んでいたが、縦走隊の準備が終わる頃に気が変わり、パーティに加わることにした。ザックのどこかに縦走用の羊毛手袋、羽毛ミトン、ゴアミトンなどを入れて来たにもかかわらず、パーティを待たせないよう準備を急ぎ、暖かかった前日に使用した薄い手袋を使ってしまったこと。

2.凍傷など別世界のことと考えていたため、凍傷に関する知識が全くなかったこと。車内で無知覚に気付いた時点で事の重大さを認識して、すぐに手近な温泉で溶解すべきだった。

3.普段から雪山では歩き始めや休憩後に指が千切れそうに痛くなるので今回も気にも留めていなかった。常に感覚の有無をチェックしておくべきだった。

4.低温やけどに注意しながらとはいえカーヒーターの温風で患部を暖めたことの可否。正常な皮膚とかろうじて生きている皮膚では耐えうる温度が異なることを配慮し、もっと低い温度で暖めるべきだったかもしれない。

 *1凍傷の保存的治療 日本山岳会医療委員会 医療コラム09-(684) 凍傷の保存的治療 長尾 悌夫