凍傷手術記 その1

2重扉になった手術室の入口で病室担当の看護士と別れ、青い手術衣をまとった医師の案内でいよいよ手術台へ。ついに来るべき時が来た。


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冬の八ヶ岳で右手薬指に凍傷を負って以来一喜一憂の3ヶ月、自然治癒の願いもむなしく主治医から患部切断、移植手術の提案を受けた。
第一関節あたりからばっさり切り落として足の親指の肉、骨、皮膚、爪を移植する手術。もしくは爪床を残して患部を切除し、そこへの足の親指の肉、手のひらの皮膚を血管付きで移植し、数週間後にどこかの骨を埋め込む手術。

いずれにしても3,4時間の全身麻酔と約1ヶ月の入院を伴う大手術。
H先生はそうしたマイクロサージャリーの第一人者。


金田正樹先生。
ギャチュンカンでの山野井泰史さん、マカルーでの長尾妙子さん、更に山野井妙子さんに変わってからのギャチュンカンでもう一度、他には故小西政継氏、大宮が生んだ世界のスーパースター故加藤保男氏等の手術を手がけた凍傷治療の第一人者。

その金田先生に手術の必要性自体を含めてセカンドオピニオンを頂きに行った。
「指の大事な機能は掴むと挟む。薬指の先が少々なくても大きな支障はないですよ。移植手術のメリットとデメリットを主治医の先生によくお聞きして判断すべきですね。」
では金田先生だったらどうしますかという問に対する先生の解は3通り。中でもアルミホイル法という方法を推奨されていた。

アルミホイル法というのは湿潤療法、すなわち傷口を乾燥させずに浸出液による湿潤状態を保つことによって真皮の形成を促進する療法の一つ。最近売り出されている湿潤型のバンドエイドや、傷口にサランラップを巻いておくのも湿潤療法。

私の場合、切断面を縫うとその縫い代を確保するために第1関節を残すことは難しいが、切りっ放しならば第一関節を残すことができるという。そしてその傷口をアルミホイルで覆っておいて真皮の形成を待つわけである。できた皮膚は感覚も強くクライミングはもちろん麻雀のモー牌もできるとか。デメリットは手術後皮膚ができるまで6-8週間かかること。懸案は細菌感染であるが、今までそんな事例はないとのこと。

いずれにしても指先の切断は必要との判断。診察室を出て不覚にも涙がちょっとだけこぼれた。なんでこんなことに、あの時ああしておけば、こうしておけばと・・・。
しかし、不思議とこれで吹っ切れた。切断するのかしないのかもう悩まなくていいのだから。あとはチョイスの問題である。

その後、会社の診療所に来ている大学病院の先生二人の意見も伺い、アクシデントで指先をなくしたドイツ人B氏、実験中に指の先端を削ってしまった同僚など湿潤療法の経験者の話も聞いた。加えてインターネットで調べた医療情報も含めて総合的に判断して金田先生に手術をお願いすることを決心。

これまで治療に尽力していただき、明るくフランクな応対で精神的にも支えていただいたH先生には本当に申し訳ない思いで転院を申し出た。

いつのまにか手術の恐怖や指の欠損が受け入れられるようになっていた入院前日、当分できなくなる庭の手入れを1日かけて済ませた。

何故か明日からこの指先がなくなるという実感はなかった。

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